イヌリン|研究対象の食物繊維素材

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イヌリンはチコリの根や玉ねぎ、菊芋などに含まれる水溶性食物繊維で、約5000年前から食されてきたという史料があります。現在では飲料や食品などの加工品に使われており、水溶性食物繊維の世界市場の1/3を占める、世界で最も使われている水溶性食物繊維です。イヌリンはビフィズス菌などの善玉菌のエサになり、ビフィズス菌などを増やすとともに短鎖脂肪酸を産生します。また、様々な研究で食後血糖値上昇抑制や血中中性脂肪の低減などの効果も示されています。

世界で拡大し続ける水溶性食物繊維市場 その1/3を占めるのが「イヌリン」

水溶性食物繊維の健康における重要性が広く知られるようになったこともあり、世界での市場規模は年々拡大中です。2018年には約2,000億円の規模になっており、今後もさらなる成長が期待されています。市場規模を地域別にみると、第1位は半分近くを占めるヨーロッパで、北米、アジアパシフィックと続きます。
水溶性食物繊維市場のおよそ1/3にあたる約600億円を占めているのが、「イヌリン」です。日本で最もよく知られている水溶性食物繊維は難消化性デキストリンですが、世界的にみると難消化性デキストリンが占める割合はわずか約8%で、イヌリンが最もメジャーな水溶性食物繊維といえます(注釈1,2)

注釈1:Meticulous Market Research Pvt. Ltd. 発行 ”Soluble Dietary Fibers Market- Global Opportunity Analysis And Industry (2018-2023)
注釈2:㈱富士経済 「生物由来有用成分・素材市場徹底調査2019年」

世界の水溶性食物繊維市場動向

イヌリンは人類の食経験が長い水溶性食物繊維

水溶性食物繊維のイヌリンは、ごぼうやタマネギ、にんにくといった馴染み深い野菜や果物、穀物などにも含まれており、人類は知らず知らずのうちにイヌリンを摂取してきたといえます。そんな野菜などの植物の中でも、とりわけ含有量が高いのはチコリや菊芋です。
チコリとヒトの関係は深く、約5000年も前に生きた古代エジプト人、古代ローマ人がすでにチコリの根を食していたことが古い文献に記されています。また、歴史の中では現在のドイツで、18世紀頃にコーヒーの代替品としてチコリの根を焙煎してお湯で抽出してチコリコーヒーが生まれました。現在では欧米諸国を中心に、身体にやさしいノンカフェインコーヒーとして親しまれています。
最近日本でも黄緑がかった白いチコリの葉がサラダやオードブルなどに利用されするようになりましたが、古代から食用として利用されてきたのは主に畑で生産される「チコリの根」の部分です。大根のように白く大きな根に、イヌリンが豊富に含まれています。
チコリ以外からの摂取も含め、イヌリン自体、人類の食経験が長いことから安全性の高さも認められており、海外では乳幼児用のミルクにも広く使われるほどです。

生の野菜・穀物・果物中のイヌリン含油量

イヌリンの特徴 ①善玉菌のエサとなり短鎖脂肪酸を産生する力=“発酵力”が高い

イヌリンは、善玉菌のエサになる代表的な水溶性食物繊維の1つであり、善玉菌のエサとなることで短鎖脂肪酸を産生する“発酵力”が高いことがわかっています。特に、善玉菌の代表・ビフィズス菌はイヌリンを好んでエサにして、酪酸をはじめとした短鎖脂肪酸をつくり出します。
腸内フローラをモデル化したin vitro試験で、3種の食物繊維(チコリ由来のイヌリン、セルロース、難消化性デキストリン)を評価したところ、チコリイヌリンが他の食物繊維と比較して、ビフィズス菌を有意に増やすことが明らかになりました。、チコリイヌリンのビフィズス菌の増殖能はセルロースの177倍、難消化性デキストリンの約55倍でした。また、総短鎖脂肪酸の産生量についても、チコリイヌリンはセルロースの2.8倍、難消化性デキストリンの2倍でした。 また、チコリイヌリンは他の原料から作られるイヌリンと比較して、短鎖脂肪酸であるプロピオン酸、酪酸をより多く産生させることもわかっています※C-1。 その他にも、ヒト試験でイヌリンのビフィズス菌増加、短鎖脂肪酸産生量増加に関する論文が数多く報告されています※C-2, ※C-3

イヌリンと他の食物繊維のビフィズス菌、総短鎖脂肪酸の産生量比較
腸内細菌モデル評価

②豊富なエビデンスに裏付けられた多様な健康機能

チコリをはじめとする多くの食物を通して摂取されてきた水溶性食物繊維のイヌリン。前述の通り、イヌリンは大腸に届き、ビフィズス菌を増やしたり、短鎖脂肪酸の産生量を増やすことにより整腸効果を示すことがわかっています。さらに、食後血糖値上昇抑制、血中中性脂肪の低下についても効果が確認されています。その他、ミネラルの吸収促進、免疫の向上といった研究報告もあり、イヌリンは全身の健康にさまざまな形で寄与していることが明らかになってきました※C-4~10。イヌリンは世界で最も使われている水溶性食物繊維であることから、世界中で多くの研究者が研究対象としています。今後もイヌリンの多様な健康機能に期待したいところです。

論文で報告されているイヌリンのヘルス機能性

<関連論文>

※C-1) Nakayama Y, Kawasaki N, Tamiya T, Anzai S, Toyohara K, Nishiyama A & Kitazono E. Comparison of the prebiotic properties of native chicory and synthetic inulins using swine fecal cultures. Biosci Biotechnol Biochem 2020; 1749553.
※C-2) Ten Bruggencate SJ, Bovee-Oudenhoven IM, Lettink-Wissink ML, Katan MB, van der Meer R. Dietary fructooligosaccharides affect intestinal barrier function in healthy men. J Nutr 2006; 136: 70-4.
※C-3) Kolida S, Meyer D, Gibson GR. A double-blind placebo-controlled study to establish the bifidogenic dose of inulin in healthy humans. Eur J Clin Nutr 2007; 61: 1189-95.
※C-4) Den Hond E, Geypens B, Ghoos Y. Effect of high performance chicory inulin on constipation. Nutrition Research 2000; 20: 731-6.
※C-5) 小枝貴弘,原健二郎,和田正,森田達也,新井映子. イヌリン添加米粉食パンの排便習慣改善効果. 薬理と治療 2015; 43: 1731-1737.
※C-6) Pourghassem Gargari B, Dehghan P, Aliasgharzadeh A, Asghari Jafar-Abadi M. Effects of high performance inulin supplementation on glycemic control and antioxidant status in women with type 2 diabetes. Diabetes Metab J 2013; 37: 140-8.
※C-7) Dehghan P, Pourghassem Gargari B, Asghari Jafar-abadi M. Oligofructose-enriched inulin improves some inflammatory markers and metabolic endotoxemia in women with type 2 diabetes mellitus: a randomized controlled clinical trial. Nutrition 2014; 30: 418-23.
※C-8) Coudray C, Bellanger J, Castiglia-Delavaud C, Rémésy C, Vermorel M, Rayssignuier Y. Effect of soluble or partly soluble dietary fibres supplementation on absorption and balance of calcium, magnesium, iron and zinc in healthy young men. Eur J Clin Nutr 1997; 51: 375-80.
※C-9) Trompette A, Gollwitzer ES, Pattaroni C, Lopez-Mejia IC, Riva E, Pernot J, et al. Dietary Fiber Confers Protection against Flu by Shaping Ly6c(-) Patrolling Monocyte Hematopoiesis and CD8(+) T Cell Metabolism. Immunity 2018; 48: 992-1005.
※C-10) Kim SH, Lee DH, Meyer D. Supplementation of baby formula with native inulin has a prebiotic effect in formula-fed babies. Asia Pac J Clin Nutr 2007; 16: 172-7.